fc2ブログ

切望

わたしは空気になりたい
風ではなく空気に
陽光ではなく空気に
かけ回ることは望んでいない
熱を孕むことも
ただ
わたしのだいじな家族の肺に入り込み
吸っては吐きだされ
吸っては吐きだされ
彼らの生存の手助けをするもので
ありたい
父の
母の
兄弟の、病気の猫の

肺をふくらませ
彼らの中でわたしはようやく
物質となる

わたしは空気になりたい
楽園は求めない
青に染まることも求めない
あの北国の重苦しく雪を抱えた、
照り返しで不気味に赤く光る、
故郷の空気に
ただ
わたしは冬の故郷の夜気で
ありたい
結晶に音を奪われた夜は
最も自我がなく
最も存在感がある
わたしは息を潜め
彼らの足音を、
声を
くしゃみを、呼吸音を

全身で受け止めて
全身を震わせたい

わたしは空気になりたい
そして彼らのもとへ
ただ
戻りたい

続きを読む»

スポンサーサイト



染まれ、黒に

あなたの瞳を覗き込むと、
きゅうっと小さな黒目がじわりと滲む
私を映す中心ではなく
その縁を、
とろりとした茶と黒の境界をなぞる

明快なはずなのに、
ふるふると揺れているような
その境界は、
たまらなく私を歓喜させる
ただ、
それはあまりにも美しくて、
その滲みが私だけのものであるようにと、
私の真っ白な感情に
一点の染みを生む

やがて
貴方の薄い瞼が瞳を覆い
触れあう熱が生じた

私の脳が白く弾ける
あぁ、しかし
染みは広がっているかもしれない
私はあなたという全てに
オソレを感じるのだ