もっと歌ってプリマ・ドンナ
何事も楽々な世界になったものだ
何百もの音が眠るジュークボックス
一本の紐でつながって
耳に直接流れ込む
ここちよいリズムだ
音に合わせて私の肩が跳ねている
世界が音で染まる
歌って、歌って、あぁ、歌って
さらに、さらに、さらに、高みへ
決して衰えぬその声色は
稀有なまでに完璧な人間の発明
美しいよ、プリマ・ドンナ
その身のひとつひとつを震わせて
永遠に歌って私のために
この一瞬、君は私のものだ
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すごく、気味の悪い夢を見たんだ
気味が悪くてゾクリとした
言うのは憚られるんだよ
こんな夢を見ただなんて
いくつか説明しただけで
眉をひそめられそうでね
勿体ぶってなどいない
たくさんの人が出てきて
たくさんの人が命を落とすんだ。
ただ、ひとつの画だけが気にかかる。
あれが気になる自分に……、
なんと言えばいいのだろう。
あの夢の中の画に
美しさとはまた違う
「魅力」を感じている自分が、いて
ゾクゾクと身を乗り出している自分が、いて
それを他人に知られるのが怖い。
あれは知られてはいけない
あれは醜いものだ
あれは悲しいものだ
惹かれてなど
いないのだ
疲れたのだ
すごく、すごく
でも疲れ切ってはいない
疲れているとは
いいたくはないのだ
言ってしまえば
それに私は浸りきる
お腹が痛い
脆弱な自分が、恥ずかしい
眠りたくはないのだ
眠れば、疲れている私の
再生産
壊れかけのコピー機、
そのように疲れの掠れた私も
いくらか経てば疲れているのだ
あぁ、すっきりとした自分に出会いたい
目の覚めるようなクリアな自分で
朝を迎えたい
リリン、と
確かそんな音がしたのではなかったか
まっ赤な火の玉が
山の向こうに消える頃
どこの家でもひもを引っ張り
あのかすかな音を鳴らしたのだろう。
リリン、リリン、リリン。
リンリンリンリンリン、と。
人々が寝しずまり
ねこが大きく伸びをする頃
夜更かしの受験生の部屋に
蛾が一匹飛んできた。
ひらひら、ひらひらひらひら、
と、盛んに光の下を舞っている
枯れ花に似た羽が
光の影を壁に移して透けそうに白い
彼奴らの情熱も薄くなったものだ
身を焦がす心配も
誰かに奪われる心配すら
もうなくなったのだから
形ばかりの求愛に
光は瞬くことすらしない。
詩合せ題「蛍光灯」
罫線の上に、黒い染みが
ひとつ。
白紙に、不自然な黒い染みが
ひとつ。
創造こそが、
平等に与えられしひとつのものと信じて
半ば惰性に
おくにある感動をひねりだしながら
ぎゅっと
ペン先をノートに食い込ませたのだった。
じわじわと染みだしたインクは
やがてぼこぼこと音をあげて沸騰し、
泡がはじけて叫び声となり、
やがて。
罫線の上に黒い染みが、ひとつ。
私の創造であり、
万人がもがき、もがくであろう、唯一平等の証。
twitterお題詩交流企画「詩合せ」第二回開催のお知らせ
□概要
twitter上でハッシュタグ機能を利用し、お題詩の公開、その詩の感想や自作の説明を通じて、交流をしよう!というものです。
□日時
7月19日(土)20時~22時
□題
蛍光灯
□ハッシュタグ
詩や、感想、自作説明の後に、#(半角シャープ)詩合せ と打ち込むだけです。
(※前回は、ハッシュタグを複数用意しましたが、煩雑だったため、簡略化しました)
□詳細
・詩は、ツイートボックスに直打ちでも、その他のweb上に公開されている自作のURLを貼り付けての公開でも結構です。
・あくまで詩の感想を言うだけであって、批判はツイートしないようにお願いします。
・何らかの理由で代理で作品を公開するというのもOKです。代理投稿である旨と作者様のお名前を明記した上で投稿してください。
他、不明な点があれば、主催者の明希人(あきと
@akito_rd)まで連絡をお願いします。
雨の音が唐突に
七月八日の零時五分
その音に
彼の人らの涙を想うも
あぁ、為す術もなく
美しく哀しい別れすらも
あぁ、紡ぐ術もなく
唐突に鳴った雨音は
唐突に終わり
臆病に過ぎる私は
濡れ光る双星を
のぞき見る気概すら
持ち得なかったのであった
詩は裸より生まれるという言葉をきいて
ありのままの姿を書こうと思ったのだが、
だめだった。
顎の腫物に軟膏を塗った、と一行書いて、やめたよ。
およそ美しくない。
美しくないものは詩とは言えぬ。
私のありのままをどう取り繕っても
美しくはならないのだ。
腫物は腫物だ。
今私の胸の内が分かるかね。
怒りだよ。恥よりも怒りさ。
わが生活の乏しさを曝け出しても、
一編の詩にもならない。
所詮私は嘘つきなのさ。
嘘をついて耳あたりの良さそうな言葉を
並べているだけなんだ。
もし虚飾が詩とはならぬなら、
私の言葉はなんと名付ければいい。
恋に恋していると君は己を嗤ったが、
詩を書くために詩を書いている私はなんとなる。
道化の妄言で何が悪いと、
他人に言わせてみたいものだ。
人の心の中には、
ひとつの宇宙があるのだと言う。
人は絶えず想いを飛ばし、
新たな世界を創造する。
他人の頭がのぞけるのなら、
そこにはこことはまた別の、
世界でなにかが呼吸しているのだろう。
きっと。
きっと。
この世界も誰かの宇宙のひとつであるかもしれず、
なにかは絶えず宇宙を拡げ、つながり、輪となって、
あぁ、
わたしはため息をつく。
ヒトはそれでもヒトを求め、
同じ空気を吸い、
視線と視線をぴたりと合わせ、
感覚器官をそっと触れ合わせることでようやく、
得心の笑みをもらす。
広い宇宙を知覚してなお、
わたしの孤独は消え去らない。
君の上を向いた横顔は、連峰に似ている。
生え際から眉にかけてはなだらかな弧を描き、そこから急な凹凸を迎え、やがて最高峰に達する。その後もつんとした形の峰が、形よく並んでいる。
上唇を舐めた。ソファの上に仰向けになって本を読んでいる。読書には辛い体勢だろうに、君の視線はやや上方に固定されたまま、時折り瞬きをしている。
遠く蝉が聞こえる室内で、ごくりと喉が鳴る音が妙に響いた。傍らのテーブルに置かれた麦茶は、まだ一口も手がつけられてはいなかった。
額には汗が浮いていた。
夕日を反射するそれが見る間に集まって、君のこめかみを走る。
昔はそれなりに、と思わせる容姿だったが、その汗に感動する者はもういないだろう。
在りし日の君の影が君に重なり、一致する前に霧散する。
柔らかい木の芽を思わせた横顔は、歳を経て、
夕闇に立つ山々を思わせた。
風に夜を感じて立ち上がる。
僕は窓を閉めた。君の指が、頁を繰る音が聞こえた。
無闇に身体を突っ込むと危ないよ
見た目はいびつな器だけれど
実は液体が入っている
よく見てご覧、底がある
でもそれは偽物なんだ
中には液体が入っている
だからとても深いんだ
道理は良くは知らないが
なめてかかると危ないよ
液体が何かも分からない
酸か熱湯かそれとも冷水か
だから充分気をつけて
底の浅い女だと
見た目でかかると痛い目を見る