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詩情の萌芽

夕日に焼けたアスファルトに
少女の影が大きく伸びている

少女は不思議に右手をあげて
碗のようにくぼんだ手のひらに
しぼんだ桜の花房がひとつ
鎮座していた

それは果たして戦利品か
親への土産か
はたまた墓でも作ってやる気だったのか
少女はそれに鼻を近づけ
ことりと首を傾げてまた歩きはじめた


産毛の透けて見えそうな柔い肌に
しおれた桜が震えている
ことんことんことん
少女に合せてランドセルが鳴る

首を反らせばまばらな桜花
ふと足元に
立派なつつじが咲いていた

ことんことんことんと
眠そうな音が遠ざかっていく
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たいせつなひと

あと何度触れるのだろう
あと何度、大切な人の訃報に

貴方の名前を検索すると
その先には嘆きが、たくさんありました
「人生を救ってくれたヒーローだった」と
「先に逝ってしまうだなんて」、と

わたしは「わたしの中の貴方」を形容する言葉を持たず、
常に貴方を追いかけていたわけでもない
それでも、
ショックでした
ぶつりと何かが欠落したような
そんな気持ちになり、
涙がでないのが不思議な、
そんな気持ちに、なったのです

きっと貴方はわたしの理想だった。
貴方の美しさが、
わたしの目指すべき、作り出すべき「美しさ」の
理想の一部になっていたのです

わたしは貴方に一度も触れたいとも
言葉を伝えたいとも思わなかった
でも今は
「わたしは貴方を敬愛していた」と
伝えることができれば、と思っています

わたしはあと何度、
わたしの大切な人がいなくなるのを
見ることになるのでしょうか
途方に暮れながら
今これを書いています

貴方はとても美しい人でした
貴方はわたしの、大切な人でした

どこにもない

何度も書いて
やはり消した

ここに
私の本心はない

ポキさんへ

ぽつんと置かれたクッションから
君の匂いがした
君は死んだのに
ちっとも匂いは変わらなかった

日なたを選んで横たわる
降り注ぐ、熱い光に
まぶたをきつくつむって
前腕で顔を覆って
君がしていたように
体を少し丸くして

あぁ、君は幸福な猫だったろうか
もちろん、私は幸福な飼い主だった

履歴の果て

2009年、わたしは憧れの学校に入学し
2013年、その場を卒業したらしい
その年の春、またも同じ門をくぐり
門を出たのは二年後のはずなのだが、
あぁ、それが西暦何年なのかが分からない。

羅列する数字。
それらは少しも記憶を連れてきてはくれない。
果たして、

私のペンが書類の上で止まる
果たして記憶の中の「私」は
私なのだろうか、と。
ひとつの時間軸上に存在する
「無数の私」と
「いまの私」は
同じ「私」と言えるのだろうか

記憶の私は決して
今の私の喜びも悲しみも
理解はできないだろう
ひとりの食卓のわびしさも
一輪の薔薇への愛しさも

あぁ、さらばだ
もう二度と過去には戻れない
「私」は歩み続ける
「私」は感じ続ける
分裂を繰り返し
感情を堆積させ
より複雑な生命体に

さぁ、進もう
ひそやかなる変化を遂げるために